骨肉腫
はじめに
骨肉腫は、類骨と呼ばれる未熟な骨の形成を特徴とする多様な悪性紡錘形細胞腫瘍の一群です。悪性の度合い、すなわちどれだけ遠隔転移をする(体のあちこちに広がる)可能性が高いかは、病理組織学的悪性度(顕微鏡でどのくらい悪くみえるか)によって決まります。言い換えれば、骨肉腫と呼ばれる腫瘍の中には、手術のみで治癒可能なものから、強力な治療にもかかわらず予後不良なものまで、様々なものが含まれます。転移のない(限局性の)病変であれば、さまざまな治療法を組み合わせることにより、治癒率は65-70%に上りますが、長く辛い治療はしばしば1年以上に及びます。生存率の改善に伴い、骨肉腫患者の写真の長期的なケアに関する新しい試みがさまざまな領域で始まっています。骨肉腫は治療設備や専門的なスタッフが整ったがん専門病院で治療されることが望まれます。以下、骨肉腫の様々な亜型にも適宜触れながら、骨肉腫の大多数を占める通常型の高悪性度骨肉腫に焦点をあてて記述します。以下の記載は骨肉腫に関するすべてを網羅しているものではありませんので、むしろ患者・医師間のコミュニケーションの一助になるような、現在の知見のまとめであるとご理解ください。
In their article Osteosarcoma on the eMedicine website, Drs. Mehlman and Cripe state, "Osteosarcoma is an ancient disease that is still incompletely understood. The term sarcoma was introduced by the English surgeon John Abernathy in 1804 and was derived from Greek roots meaning fleshy excrescence (Peltier, 1993). In 1805, the French surgeon Alexis Boyer (personal surgeon to Napoleon) first used the term osteosarcoma (Rutkow, 1993; Peltier, 1993). Boyer realized that osteosarcoma was a distinct entity from other bone lesions such as osteochondromas (exostoses)."
Peltier L. F., "Tumors of bone and soft tissues" in Orthopedics: A History and Iconography. San Francisco, California, Norman Publishing; 1993: 264-291.
Rutkow I. M., "The nineteenth century" in Surgery: An Illustrated History. St. Louis: Mosby; 1993: 321-504.
骨肉腫の疫学
骨肉腫は、骨に発生する悪性の固形腫瘍(原発性骨腫瘍)の中で最も多い疾患で、骨原発悪性腫瘍の約20%を占めます(Dahlin 1986)。米国では、年間約400-1000人の新しい患者さんが、新たに骨肉腫と診断されており(Marina 2004, Gibbs 2001)、発病率は約3/100万人と考えられています。若年者に多く、骨肉腫患者の写真の75%以上は25歳未満で発症します(Mirra 1989)。成人発生の骨肉腫は、Paget病、骨梗塞、慢性骨髄炎や、照射部位などから二次性に発生することが多いとされています(Mirra 1989)。骨肉腫は男性にやや多く発症しますが、骨格の成長期間が女性と比較して長いことが原因と考えられています(Dorfman 1998)。これに対して、骨肉腫の亜型である傍骨性骨肉腫は女性に多く好発年齢も通常型骨肉腫よりも少し高い傾向があります(Dahlin 1986)。これまで、骨肉腫発症における民族差、人種差は報告されていません(Buckley 1998, Dorfman 1998, Weis 1998)。
病因、分子生物学的背景
骨肉腫の原因は何でしょう?これまでいくつかの発見がありましたが、ほとんどの症例で、いまだ不明のままです。FuchsとPritchardらは、既知の原因物質を、化学物質、ウィルス、放射線、その他に分類しました(2002年)。化学物質としては、ベリリウム化合物、メチルコラントレンなどが含まれ、遺伝子変異を引き起こすと考えられています。Rousらは、肉腫発生にウィルス感染が関与していることを最初に示しました(1912年)。レトロウィルス(あるいはRNAウィルス)であるラウス肉腫ウィルス(Rous sarcoma virus)には、正常な動物細胞に存在する癌原遺伝子(proto-oncogene)であるc-Srcのホモログ(相同)遺伝子、v-Srcという遺伝子が存在します(Pritchard 1975)。他にも骨腫瘍発生に関与するウィルスがいくつか知られています(Diamondopoulas 1973, Stewart 1960)が、FBJは実際に発生した肉腫から分離された唯一のウィルス(Fuchs 2002)で、マウスで骨肉腫発生を誘導するとされています(Finkel 1966)。FBJに含まれる癌遺伝子は、正常な動物細胞に存在する癌原遺伝子(proto-oncogene)であるc-Fosと類似し(Fuchs 2002)、骨肉腫患者の写真においては、化学療法に対する抵抗性に関与するといわれています(Kakar 2000)。
放射線は多くのがんの発生に関与しているといわれています。他のがんに対する放射線照射の何年も後に二次性の肉腫が発生すること、二次性肉腫の中で病理組織学的に骨肉腫がもっとも多いことから、骨肉腫発生においても放射線被爆の関与が強く示唆されています(Enzinger 1995, Tucker 1990, 1987, 1985, Huvos 1985, Weatherby 1981)。
その他にもさまざまな原因が示唆されています。骨肉腫と骨Paget病との関連はよく知られており、骨Paget病の約1%に骨肉腫が発症するといわれています。18番染色体のヘテロ接合性の消失の関与も示唆されていますが、その詳細なメカニズムは未だ不明です。
骨肉腫発症に関連する遺伝子変異の1つは網膜芽細胞腫(RB)遺伝子のヘテロ接合性の消失である。この遺伝子産物はDNAを損傷した細胞の増殖を抑制する役割(がん抑制)を持つタンパク質である。この遺伝子の機能消失により、不規則に細胞が増殖し、骨肉腫を含むいくつかの特定のがんを発症する。この遺伝子変異がある骨肉腫患者の写真の生存率は低いと報告されている(Feugeas 1996)。TGF-βは低悪性度の病変よりも高悪性度骨肉腫に高発現している成長因子(Franchi 1998)で、RB遺伝子産物の阻害物質として知られており、悪性度の高さに関与していると考えられている。もう一つのがん抑制遺伝子であるp53の変異も骨肉腫に関与しており、Rbやp53の不活化はほぼすべての骨肉腫に認められる(Ladanyi 2003)。
その他の骨肉腫に関与する遺伝子変異として、ヒト表皮成長因子受容体(HER-2、あるいはERB-2)が知られている。HER-2の過剰発現は、より高い悪性度、高い転移能、短い無再発生存期間、そして低い全生存率と関係するとされている(Ferrari 2004, Morris 2001, Gorlick 1999, Onda 1996)。同様に、腫瘍細胞の多薬剤耐性に関与する重要な分子であるP-glycoprotein(Ferrari 2004, Pakos 2003, Park 2001, Hornicek 2000)や、腫瘍血管新生に関わる増殖因子であるVEGF(Hoang 2004, Kaya 2002, Zhao 2001, Kaya 2000)なども悪性度や予後に関連すると報告されている。骨肉腫では多くの遺伝子変異が認められるが、診断に有用な遺伝子変異のパターンはいまだ存在しない(Sandberg 1994)。
臨床症状
骨肉腫患者の写真が病院を受診するきっかけとなる症状として一番多いのは、疼痛や、触ってわかるほどの腫瘤(図1)で、初診時に約1/3の患者さんでみられます(Widhe 2000)。
小さなお子さんですと、跛行(歩き方の不自然さ)が唯一の症状であることもあります。疼痛は数か月前からあるのでしょうが、最初は筋肉痛、使い過ぎによる痛み、あるいは“成長痛”など、より一般的な疼痛と区別がつきません。患肢に外傷(ケガ)が加わって初めてレントゲンを撮影し、骨の異常所見が見つかるということがしばしばです。不幸にも、骨肉腫によって弱くなった骨に骨折(病的骨折)を生じると、手術後の局所再発率を上げ、生存率を低下させてしまいます(Scully 2002)。初診時に、骨肉腫の可能性を念頭におき、注意深い患肢の診察と、適切な画像診断を行うことが、診断の遅れ、さらには診断の遅れに伴う病的骨折などのリスクを低下させることにつながります。
通常行う治療で改善しない疼痛、安静時痛、あるいは夜中に起きてしまうような疼痛に対しては、さらなる精査が必要である。腫瘍性病変の存在が疑われた場合は、必ず骨軟部腫瘍専門医へ紹介すべきである。
他の多くの肉腫同様、骨肉腫患者の写真は病気がちに見えることは少なく、実際に気分がすぐれないこともほとんどありません。高熱、倦怠感、その他の全身症状は骨肉腫ではあまり認められません。血沈、CRP、ALP、LDHなどが上昇することもあるため、血液検査は参考にはなりますが、どれも骨肉腫に特異的な変化ではありません。患者の約半数にみられる治療前のALP上昇は再発のリスク因子であることが示唆されています(Bacci 1993)。LDH高値は、生物学的により高悪性度の腫瘍であることを反映していると考えられ、予後不良因子です(Bacci 1994, Meyers 1992)。
画像所見
骨肉腫の診断では、単純レントゲンが診断の決め手になることが多いです。典型的には、病変は長管骨の骨幹端、特に膝周辺に多く発生します(図2参照)。
海綿骨と皮質骨の破壊により、病変の辺縁は不明瞭で、骨外軟部病変内に骨化を認めます (Gebhardt 2002, Gibbs 2001) 。病変は、類骨の石灰化の度合いに応じて溶骨性であったり、骨硬化性であったり、あるいは両者が混在したりします(Kesselring 1982)。表在型の亜型では、病変が正常骨の表面にのっているように見える点で、通常型のものと異なります。進行例で骨髄内に病変を認めることはあるものの、表在型亜型は典型的には骨髄内病変を認めません。
血管拡張性骨肉腫はレントゲン上完全な溶骨性変化を示すことが多いです。動脈瘤様骨嚢腫など良性の溶骨性腫瘍と鑑別が困難である場合があります。少しでも血管拡張性骨肉腫が疑われれば、生検を行うことが望まれます。
他の画像診断、特にMRIは骨肉腫が疑われた際、最初の評価法として有用です。以前はCTで行われていた病変の広がりの評価は、現在は多くの場合MRIで行われます。
CTが骨破壊の程度を詳細に評価できるのに対し、図3のごとく、MRIは様々な断面で撮像することが可能で、骨外軟部病変と隣接する神経血管束との関係、および髄内病変の広がりを詳細に評価できることが利点です(Estrada 1995, Gillespy 1988, Sundaram 1987)。
MRI T1強調冠状断像および矢状断像は髄内病変の広がりの評価に、T2強調横断像は骨外軟部病変の評価に有用である(Gillespy 1988)。加えて、造影MRIは腫瘍と隣接する組織(神経、血管、筋肉など)との関係を詳細に描出し、ステージ診断、および手術計画に不可欠である。MRIは被験者への放射線被爆がないため、経時的に撮像することで治療に対する反応や、(手術に用いる金属製の人工関節や骨接合用プレートによりうまく撮像できないこともあるが)局所再発のスクリーニングを安全かつ正確に施行可能である。
骨シンチ(核医学検査)とFDG-PETは、原発巣の評価よりもステージ診断のための全身評価に有用な補助的検査です。骨肉腫に対する骨シンチは、全身骨に転移性病変がないかを調べるのに最も有用です。
ステージ(病期)診断
肉腫が疑われる場合はステージ診断が必須です。ステージ診断は次の3つの要素をもとに決定します。
- たちの悪さ(悪性度)
- 病変の広がり
- 転移の有無
悪性度(グレード)とは、腫瘍が生物学的にどのくらい“たちが悪い”かの指標です。これは、生検時の病理学的検査結果にもとづいて判断されます。骨肉腫の多くは高悪性度と考えられます。腫瘍の広がりとは、発生母地のコンパートメント(区画)を超えて腫瘍が進展しているか否かの指標です(骨肉腫であれば、骨を破壊し、周囲の軟部組織に浸潤しているか否かです)。体の他の部位への広がりは遠隔転移と言います。転移を認める患者は、初診時に発見可能な転移を認めない患者と比較して予後不良です。微小転移の存在をとらえるような血液検査はないものの、一般的に高悪性度骨肉腫患者の写真の約80%に初診時画像検査では発見できない微小転移が存在すると考えられています(Link 1986)。しかしながら、ステージ診断の際は、画像検査でとらえられる転移の存在をもって評価します(Ferguson 2001)。骨肉腫遠隔転移の好発部位は肺と骨の2つです。したがって、胸部単純レントゲン、胸部CT、骨シンチはステージ診断において非常に重要な検査です。発生部位の骨全長に及ぶMRIは原発巣の広がりを評価するだけでなく、骨シンチでは描出困難な(Bhagia 1997)スキップ転移(Van Trommel 1997)の評価に必須です。これらは発生部位の骨内に存在する転移巣で、骨肉腫の5%未満で認められます(Campanacci 1999)。補助療法の進歩にもかかわらず、スキップ転移を有する症例の予後は不良です(Wuisman 1990, Sajadi 2004)。
初診時の画像検査、血液検査が終了した後、生検を行います。生検とは、確定診断をつけるために腫瘍組織を採取する非常に重要な検査です。腫瘍の病理組織検査(顕微鏡下での検査)は腫瘍の性質を知る最初の手掛かりとなります。必要な組織は、針生検や切開生検で採取します。
切開生検は外科的処置であり、手術室で行われます。骨外の軟部病変に対しては針生検を行えるので切開生検を必ずしも必要としないこともありますが、切開生検を行うことで病理診断のための最良な組織を提供することが可能です。一方、針生検を実際に行うには、針生検材料を用いた病理診断の経験の豊富な骨・軟部腫瘍専門の病理診断医と協力して行うことが必要です。針生検が選択された場合、放射線診断医によってCTガイド下で施行することが多いです。針の刺入部位が不適切であると、患肢温存手術を困難にしたり、不可能にしてしまったりすることがあるため、針の刺入部位は将来腫瘍切除を行う外科医と相談のもとで決定すべきです (Mankin 1996, 1982)。
病理組織学的評価が終わり、病理組織学的悪性度が確定したら、得られたすべての情報をまとめ、腫瘍の“個性”を決定します。一般的に用いられ、簡素な骨・軟部腫瘍のステージ診断方法の一つが表1のEnnekingのステージ分類です(Enneking 1986, 1980)。
病期 | 悪性度 | 悪性度部位 |
---|---|---|
IA | 低 | コンパートメント内 |
IB | 低 | コンパートメント外 |
IIA | 高 | コンパートメント内 |
IIB | 高 | コンパートメント外 |
III | 悪性度関係なし | コンパートメント内外関係なし |
この分類を用いると、多くの通常型骨肉腫患者の写真は初診時Stage IIBと診断されます。すなわち、高悪性度、周囲軟部組織への浸潤あり、そして初診時遠隔転移なし、の状態です。
病理組織
骨肉腫の病理組織学的特徴は、悪性の骨形成性の紡錘形細胞が存在し、類骨を形成することです。(図4)一般的に多様な組織像を示します。現在、WHOは通常型骨肉腫に、骨芽細胞型、軟骨芽細胞型、線維芽細胞型という3つの亜型が存在するとしています(Raymond 2002)。軟骨肉腫や骨未分化多形肉腫と間違って診断されることもあります。併存する軟骨基質や、線維性基質の有無にかかわらず、悪性様の間質細胞が線維性骨を伴っていれば、骨肉腫と診断します。
顕微鏡所見
骨芽細胞型骨肉腫は、顕微鏡下で、悪性様の骨芽細胞から構成され、主な基質として線維性骨を伴っている。軟骨芽細胞型骨肉腫は、小腔に悪性紡錘形細胞を伴う軟骨様の基質で構成される。線維芽細胞型骨肉腫は一見、悪性紡錘形細胞腫瘍様だが、わずかな類骨形成が唯一の骨肉腫としての判断材料になる。実際には、それらの所見が混在して存在することが多い。これら亜型に関する知識は、病理診断医による診断に有用ではあるものの、これら顕微鏡所見に基づく診断基準が臨床経過や予後に関係するといったデータはない(Marina 2004)。
その他、臨床的に重要な亜型も存在します。傍骨性骨肉腫は低悪性度表在性亜型の一つです。顕微鏡下では、低悪性度線維性間質と、通常型骨肉腫と比較して分裂像の少ない、異型の乏しい腫瘍細胞から構成されます(Okada 1994)。骨軟骨腫様の軟骨帽がみられることもあります(Wold 1990)。まれに脱分化し、高悪性度肉腫が発症することもあります(Sheth 1996, Wold 1984)。骨膜性骨肉腫は、中等度悪性の表在型骨肉腫の一つです。長管骨の骨幹部に好発し、一般的に軟骨様の病理所見を呈します。血管拡張型骨肉腫は画像所見上も病理組織学的にも動脈瘤様骨嚢腫に酷似することがあります。一般的に、わずかな細胞異型と類骨形成を認めることで、高悪性度の血管拡張型骨肉腫と診断します(Wold 1990)。
治療
この30年で、骨肉腫に対する治療法は大きく進歩しました。その大きな要因としては、画像検査の進歩に加えて、集学的治療の重要性が認知されたことがあげられます。生存率が大きく改善したのみならず、骨肉腫患者の写真の多くで患肢温存手術が安全に行われるようになりました。
通常型骨肉腫患者の写真に対する標準的な治療法は、化学療法と外科的手術との組み合わせからなります。化学療法のタイミングや、術後から開始する(術後化学療法、アジュバント療法)のがいいのか、術前から開始する(術前化学療法、ネオアジュバント療法)のがいいのかなど議論はあります。いずれにせよ、手術単独、あるいは化学療法単独では、通常型の高悪性度骨肉腫に対しては不十分であるといえます。
低悪性度表在型亜型では、手術単独で根治可能であると考えられています。中等度悪性の症例では化学療法が用いられますが、絶対に必要というものでなく、症例に応じて化学療法の適応を考えるのがよいと考えられます。
化学療法
骨肉腫は、全身に広がる疾患と考えるべきです。通常の画像検査では、初診時に全患者の10-20%しか転移巣が検出されないものの、約80%の患者は初診時に画像検査で認められない微小転移を有していると考えられています(Ferguson 2001)。このことが、抗がん剤の全身投与を行う根拠となります。これまでに、骨肉腫に対して、手術と組み合わせて化学慮法を行うことの絶対的な有用性が示されています。初診時転移を認めない患者が最も良好な生存率を示します。一度転移を生じると、治療はより困難となり、治療成績も悪化します。しかしながら、集中的な化学療法と手術により、半数近くの患者では転移後も長期生存を期待することができます。
無作為臨床試験において、術後経過観察のみの患者群における無再発生存期間は17%であったのに対し、化学療法を併用した患者群では66%であった。この二群間の生存率の相違は、時間の経過とともに拡大した(Link 1993)。
歴史的には、化学療法は手術の後に行われました。(完成に何週間もかかる)カスタムメイドの人工関節を用いた患肢温存手術が行われるようになり、少しでも治療開始を早めるために、手術に先行して化学療法を始める施設が出てきました。これにより、術前化学療法とその後の手術が好まれるようになりました(Rosen 1979)。今日、この治療の組み合わせが多くの施設に広まっています。術前化学療法により約3か月手術が遅れてしまいますが、この手法にはいくつかの利点があります。たとえば、術前化学療法を行うことで、切除の際に腫瘍壊死率(腫瘍細胞の死亡)について調べることが可能です。腫瘍壊死率評価により、その腫瘍の生物学的特性について貴重な知見を得ることができます。
一般的に、壊死が90%を超えるものを化学療法に対し良好な反応を示したと考える。化学療法に対する反応が悪い時に、化学療法のレジメンを変更しても治療成績が改善しなかったとの報告から、壊死率が90%未満の時に治療方針をどのように変更すべきかはいまだ明らかでない(Ferguson 2001)。
術前化学療法を行うことによる別の利点として、多くの腫瘍が“引き締まり”、あるいは縮小することで、外科的切除をより安全に、より確実に行うことができます。以上のような理由で、術前化学療法が一般的に有用であるとされる一方で、当初考えられていたように(Rosen 1979)、必ずしも全無症候生存率を改善するものではありません(Goorin 2003)。
術前化学療法を行うことによる別の利点として、多くの腫瘍が“引き締まり”、あるいは縮小することで、外科的切除をより安全に、より確実に行うことができます。以上のような理由で、術前化学療法が一般的に有用であるとされる一方で、当初考えられていたように(Rosen 1979)、必ずしも全無症候生存率を改善するものではありません(Goorin 2003)。
心毒性・腎毒性のある治療を開始する前の、ベースラインの心機能、腎機能を評価するために、心エコーや血液検査などが治療前に行われます。使用する薬剤、それらを用いる時期、予想される毒性や副作用に関して、腫瘍内科医より治療前に説明がなされるべきです。
手術
骨肉腫は可能な限り手術で切除すべき疾患です。骨肉腫の根治を目指すためには腫瘍を必ず切除しなければなりません。一般的には、ある一定期間の化学療法(術前化学療法)後に行うことが多いです。手術の主な目的は、安全にかつ完全に腫瘍を取り除くことです。歴史的には多くの患者が切断をしました。この30年で、化学療法と正確な画像評価技術両者の進歩により、患肢温存手術が標準的となりました。これらの進歩により、以前であれば切断の絶対的適応であった病的骨折後の症例も患肢温存手術をうけることが可能となりました(Scully 2002)。今日では、患肢温存手術は切断と同程度の局所制御率や長期的な生命予後を期待することができます。
ある一患者に対して手術方法を選択する際、腫瘍学的に根治的に切除するという目標は、術後の機能よりも必ず優先されなければならない。
腫瘍が完全に切除された上で、血が通い、神経の通じた手足が温存されるようなら、患肢温存手術は適切と考えられます。主な神経や血管に腫瘍の浸潤がある、あるいは腫瘍の完全な切除により重篤な機能喪失を伴う場合は、切断の方が良い選択肢かもしれません。他の要因としては、患者の年齢、患者の希望する機能のレベル、整容的問題、そして長期的な機能予後が考慮されなければなりません。患者、患者家族と医療チームとの継続的で詳細な相談の積み重ねが手術方法選択においては必須です。
手術は術前の計画と評価を必要とします。患者は手術に先立って(前述の如く)再度ステージ診断を行い、術前化学療法によりどの程度の効果があったのかを評価します。通常、全身骨シンチと胸部CTに加えて、単純レントゲンやMRIを用いて原発巣を評価します。これらの新たな検査により、手術計画に必要な情報を得ることができ、新規病変有無の確認や、既存転移病変の評価に有用です。患肢温存手術に伴う再建方法には数週間の準備が必要となることがあるので、患肢温存手術を選択する場合は特にですが、患者に提示する手術方法に関する最終判断は1日でも早く下されるべきです。
手術手技は切断、患肢温存、回転形成術の大きく3つに分類されます。切断は十分な切除縁を確保したうえで、腫瘍を含めて四肢遠位を切除します。(表2 広範切除、根治的切除を参照)
腫瘍内切除 | 掻爬、部分切除 |
---|---|
辺縁切除 | 周辺反応層での切除。顕微鏡的に腫瘍が残存する可能性あり |
広範切除 | 周囲正常組織で被覆した状態で腫瘍を切除 |
治癒的切除 | 切断など、コンパートメント全体の切除 |
切断後の機能予後は様々で、多くの要因が関与します。上肢切断に関しては、若年者で肘関節が温存された場合は機能予後が良好です。下肢切断はより複雑です。ある研究では、残存した患肢の快適度、反対側の四肢の状態、義肢のフィット感と機能、他の人にどのようにみられているかという感覚、および運動に参加できるかなどが、下肢切断の満足度に大きく関与すると報告しています(Matsen 2000)。
切断と患肢温存は手技こそ異なるが、患者の長期的な機能や満足度は同程度と報告されている(DiCaprio 2003, Refaat 2002, Nagarajan 2002)。
切断は最初こそコストがかかりませんが、義肢のコストと、定期的に義肢を新調しなければならないので、長期的には人工関節による患肢温存よりもコストが高くなります(Grimer 1997)。切断の最も大きな利点は、1回の手術で終わり、ほとんど合併症を発症しないことでしょう。さらに切断を受けた患者は人工関節や同種骨移植など患肢温存手術に関わる、緩みや骨折といった合併症の心配がないため、スポーツ活動に勤しむことが可能です。
患肢温存手術とは、患肢を栄養・支配する神経血管束を温存しながら、正常組織で腫瘍周囲を1層被覆した状態で腫瘍を切除する方法です(表2“広範切除”参照)。一度腫瘍が取り除かれると、四肢の欠損した骨・軟部組織を何かしらで再建しなければなりません。腫瘍切除後の組織欠損は平均15-20cmと、非常に大きな欠損になることもあり、複雑な再建を要します(DiCaprio 2003)。再建の選択肢としては、(金属)人工関節、同種骨(お亡くなりになった人の骨)、自家血管柄付き骨移植、あるいは腫瘍を殺す処置をしたさまざまな自家処理骨です。組織欠損の部位や大きさ、期待される機能予後、患者本人および家族の希望を考慮して最終的に決定します。近年は、人工関節、同種骨、あるいは同種骨と人工関節を組み合わせたコンポジット再建も広く行われています。
人工関節による再建は、一般的な患肢温存方法として広く用いられています。切除された骨の代わりに金属製の人工関節を置換する方法です(図5参照)。この方法は同種骨移植で必要となるような骨と骨との癒合を必要としません。通常、術後早期より積極的なリハビリが行われています。合併症としては、人工関節のゆるみと創傷治癒の問題があげられます。
20歳未満で、長い大腿骨遠位置換を行った患者の多くに無菌性ゆるみを認める。これら人工関節の生存率は5年で80%、10年で65%、そして20年で50%である(Damron 1997, Unwin 1996, Malawer 1995)。これらの患者で感染率は13%に上る。
重篤な合併症が避けられたとしても、再置換や人工関節延長など度重なる手術が必要となることは患者の負担となります。最近の人工関節置換を行った25例の報告によると、10例(40%)で少なくとも1回の再置換を要し、初回再置換までの期間中央値は4.9年でした(Tunn 2004)。Ruggieriら(1993)は、患肢温存では63%、切断で0%、回転形成術では44%に術後の合併症を認めたと報告しています。医師と患者にとって、選択肢となるそれぞれの治療法に関するリスクや長期的な成績を理解することが重要です。
同種骨移植は、生物学的に患者の骨に置換されるという利点があります。問題は置換されるまでにかかる時間です。抗がん剤投与は、同種骨と患者正常骨との癒合を阻害すると報告されています(Hazan 2001)。800例を超える同種骨再建の報告では、同種骨が3年以上合併症なく維持された場合は、良好な長期成績につながるとされています(Mankin 1996)。最初の3年の障壁は、感染(11%)、骨折(19%)、偽関節(17%)でした。関節表面まで置換する同種骨軟骨移植はさらに関節破壊のリスクを伴います。前述の報告では、膝関節に同種骨軟骨移植を行った患者の16%、股関節に同種骨軟骨移植を行った患者の20%で移植後平均5年後に人工関節全置換術を要したと報告しています。加えて、大きな同種骨を用いることにより、感染性疾患の伝播や非自己に対する免疫反応が懸念されます。他の臓器移植でみられるような拒絶反応はおこらないものの、免疫反応により移植骨の修復を阻害したり、正常骨への置換を遅らせたりします。移植骨の提供者(ドナー)は成人が多いため、若年者や小さい患者に用いる際は特に移植骨のサイズに制限があります。
回転形成術は、切断と患肢温存の中間で、一般的に大腿骨遠位の骨肉腫に行われます。基本的には神経血管束と下腿遠位を温存する部分的な切断で、腫瘍切除後に大腿近位部に再接合する方法です。足関節が膝関節として機能するように、遠位の部分は180度回旋させ、本来大腿切断を下腿切断の様にすることで、最大限に義肢が利用可能となります(図6参照)。
“膝”の屈曲、義肢装着下での歩行、そしてスポーツ活動に関して良好な機能を得ることができます(Merkel 1991)。これは足部の固有感覚や知覚が保たれることも一因です(Winkelmann 1996)。回転形成術は12歳以下の骨格が未熟な患者の、膝周辺に発生した腫瘍に対して最もよい適応とされていますが、より高齢の患者においても良好な成績をおさめています。この患肢再建方法の主なデメリットは整容的な問題です。この手術の特徴、術後のリハビリ経過、そして回転形成術後の患肢の容姿について、術前の教育とカウンセリングが必須です。回転した患肢で実際にどのように生活をするのかよく理解するためには、患者本人とその家族が、回転形成術を行った人に実際に会うことがしばしば有用です。
健肢の成長が持続する成長段階の患者に関しては、将来的に脚長差という新たな問題が起き、患肢の複数回の手術を要する可能性があるため、手術方法決定の際に特に留意が必要である。膝関節周囲の骨端線(成長板)が下肢全長の成長の70%に寄与するため、膝関節周囲に発症した腫瘍に関しては特に気を付けなければならない(Finn 1991)。脚長差補正のため、反対側の骨端線閉鎖や同側の脚延長が必要になる。組み立て式人工関節や、延長型人工関節などが一般的に脚長差の補正に用いられる。これらの人工関節は、設置後も一定の骨成長が保たれるように、骨セメントを用いずに、滑らかなステムを用いて、温存した骨端線をまたいだ人工関節の固定を行う(Neel 2004, Eckardt 1993)。骨の成熟に伴い、しばしば、より“永久的な”人工関節への再置換術が必要となり、その際には、前述のリスクを伴う。伴うリスクは他の患肢温存術と同様であり、ゆるみや感染が一般的な合併症である。たび重なる手術が必要となる可能性はあるが、機能的な成績や総合的な患者満足度は優れている(Neel 2003, Plötz 2002, Eckardt 2000, Tillman 1997, Ward 1996, Eckardt 1993, Kenan 1991)。
予後
現在のレジメンを用いると、初診時転移のない骨肉腫患者の写真の生存率は70%に及びます。予後不良因子は、発症部位(体幹部発生は予後不良)、大きな腫瘍、化学療法に対する低い感受性、および転移病変の存在です(Bielack 2002)。これらの中でも、どの報告でも一貫しているものは転移病変の存在です(Bielack 2002, Marina 1993, Meyers 1993)。切除可能な肺転移を有する患者は30-50%の生存率があります(Bacci 1997)。治療法の如何に関わらず、切除不能肺転移、化学療法に抵抗性の病変、あるいは複数の骨病変を有する患者は、予後が不良です(Ferguson 2001, Bacci 1996, Meyers 1993)。
治療後経過観察
治療終了後は、局所再発、遠隔転移、および治療関連合併症の有無を評価するために注意深い経過観察が必要となります。注意深い診察、発症部位のレントゲン検査、胸部の画像評価、骨シンチ、および血液検査を行います。これら評価は治療直後は頻回に、その後無病の状態を維持できていれば、間隔をあけて行います。再発が認められた場合は、追加の外科治療や化学療法が必要となります。長期生存率は低下しますが、初発時と同様の治療方針で臨みます(Ferguson 2001, Link 1991)。治療終了後早期(1年以内)に再発した患者の方が、より晩期に再発した患者よりも治療成績が劣るという報告もあります(Ferrari 1997)。
まとめ
この30年で、骨肉腫は致死的な疾患から治癒する可能性のある疾患に変わりました。全身療法の進歩に伴う長期予後の改善により、骨肉腫患者の写真のケアにおける多くの新しい問題点が出てきています。患者が長期に生存できるようになったため、機能や生活の質(QOL)の指標がより重要になってきています。現在、治療に関する決定は、患者の一生の中で将来的に起こりうることまで考慮しなくてはならなくなりました。現在研究が進んでいる病因や発症機構のさらなる解明によって、新しい革新的な治療方法が生まれることが期待されます。そのような将来の進歩に向けて、臨床面と基礎研究面との共同研究の継続が必要です。
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図1:大腿骨遠位(膝のすぐ上)の大きな腫瘤の写真。膝周囲は骨肉腫の好発部位ですが、このような明らかな腫瘤がいつも見られるわけではありません。
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図2:図1にみられた腫瘤の正面・側面単純レントゲン像。腫瘤内の骨形成が特徴的です。これらの所見は、骨肉腫の診断の決め手になります。
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図2:図1にみられた腫瘤の正面・側面単純レントゲン像。腫瘤内の骨形成が特徴的です。これらの所見は、骨肉腫の診断の決め手になります。
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図3:大腿骨骨幹部までの髄内病変を伴う大腿骨遠位腫瘤のMRI T1強調冠状断像。横断像では隣接する神経・血管束を認めます。それら重要な組織と腫瘍との位置関係を評価することは、適切な腫瘍切除術の計画のために非常に重要です。
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図3:大腿骨骨幹部までの髄内病変を伴う大腿骨遠位腫瘤のMRI T1強調冠状断像。横断像では隣接する神経・血管束を認めます。それら重要な組織と腫瘍との位置関係を評価することは、適切な腫瘍切除術の計画のために非常に重要です。
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図4:大腿骨遠位骨肉腫切除後の術中写真
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図5:この顕微鏡写真では、異常な紡錘形細胞が未熟な骨組織(類骨)を形成している、骨肉腫に極めて特徴的な所見を認めます。
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図6:大腿骨遠位(膝の上)骨肉腫に対する患肢温存に用いた、人工関節の単純レントゲン(正/側面)像
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図7:腫瘍切除後患肢再建に回転形成術を施行した患者の写真。足部を180度回転させ、足関節が膝関節として機能していることがわかります。本治療法で良好な患肢機能が獲得できますが、整容的な問題から本手術の適応が制限されます。