悪性線維性組織球腫(MFH)
悪性線維性組織球腫とは何か?
悪性線維性組織球腫(Malignant fibrous histiocytoma、以下、MFH)は肉腫の一種であり、軟部組織と骨から発生する起源不明の悪性腫瘍である。MFHは1961年にKauffmanとStout(文献22)により初めて紹介され、当時から論争の対象となっていた。彼らはMFHを花筵状の増殖形態を伴う組織球に富んだ腫瘍として報告した。1977年まで、MFHは成人に最も多くみられる軟部肉腫とみなされていた。頻繁に診断されるにもかかわらず、MFHは謎を含んだままであった。いかなる 真の起源細胞もいまだに同定されていない。2002年に世界保健機構(WHO)はMFHを公式の診断名として採用しないことを決定し、そのほかの病変に分類できない未分化多型肉腫と再命名した。様々な腫瘍が未分化方向への変化を示すが、MFHがそれらの腫瘍における最終的かつ共通の経路を表している、という最近10年間の説得力ある証拠に基づいて未分化多形肉腫と命名されている。どのようにすれば最も正確にこれらの腫瘍を体系化できるか、ということはいまだにはっきりとはしていないが、多くの患者が悪性線維性組織球腫と診断されてきた経緯もあり、MFHという診断名は患者と医者の両方によっていまだに広く使用されている。この総説はかつてMFHとして診断された軟部腫瘍について記述しようと思う。
MFHは後に述べる4つの亜型に分類されるような幅広い組織像を呈する(文献3)。
- 花筵状‐多形型
- 粘液型
- 巨細胞型
- 炎症型
これらの中では、花筵状‐多形型が最も多い亜型であり、MFH全体の70%近くを占める(図1参照)。 粘液型亜型は二番目に多いものであり、全MFHの約20%を占める(図2)。
MFHのその他の亜型とは異なり、粘液型は病勢が激しくない傾向があり、結果として予後は良好である。巨細胞型と炎症型は稀である。炎症型MFHは後腹膜腔に発生しやすい。
定義により、 粘液型亜型は少なくとも50%の粘液領域を含まなければならない。時折、腫瘍の結節全体が粘液に富む所見を示し、粘液腫や結節性筋膜炎のような良性疾患との鑑別が困難である。たいていの 粘液型MFHは低悪性度腫瘍としてふるまい、より穏やかな臨床経過をたどる。
いかにして悪性線維性組織球腫は出現するか?
すべての骨軟部肉腫と同じように、MFHはまれであり、(米国で)毎年たった2,3千例が診断されるのみである。
軟部組織発生のMFHは全年齢で発生しうるが、典型的にはおおよそ50から70歳で発症する。MFHが20歳未満の人に発生するのは非常に珍しい。
やや男性優位性がある。軟部MFHは体のどの部分にでも発生しうるが最も多く発生するのは下肢であり、特に大腿に発生する。他の好発部位は上肢と後腹膜腔である。多くの場合、主訴は数週から数か月という短い期間に出現した腫瘤やこぶである。患者が患部にけがをしたと訴えることは珍しくない。例えば、患者は”テーブルの角にぶつかって”、それから太ももにこぶが出来たと訴えるかもしれない。我々が知る限り、けがはMFHを引き起こさないが、むしろけがをしたという出来事が患肢に注意を引きつける。腫瘤は近接する神経を圧迫しない限りは通常、痛みは引き起こさない。体重減少や疲労のような症状は典型的ではないが病気が進行すると起こりうる。後腹膜腫瘍は患者が腫瘤そのものに気が付かず、むしろ、拒食症や腹圧上昇のような全身症状を合併してから発見されるので、発見される前に非常に巨大になりうる 。
小児にMFHが発生することは極めてまれであるので、小児発生のMFHと診断を下す時には、ほかの鑑別診断を完全に否定する必要がある。
“しこりを感じました。さあどうしよう?”
すべての腫れやしこりががんというわけではない。実際たいていはがんではない。とはいえ、全ての腫瘤は医者の診察を受けるべきである。医者は“どのくらい前からその腫瘤はありますか?”とか“それは大きくなっていますか?もしそうならどのくらいの期間をかけてですか?”といった、腫瘤に関する一連の質問をする。医者はそして、腫瘤の大きさや硬さを評価し、患肢のほかの部位を検査し、腫大したリンパ節を探すために徹底的に診察を行う。
レントゲン写真は最初の画像検査として行われることが多い。多くの場合、引き続きMRIを行う。 MRIによって、腫瘤の大きさ、場所、神経血管とどのくらい近いか、という、腫瘤に関する非常に重要な情報を得られるので、MRIは軟部腫瘍に対して最も有用な画像検査である。一方で、がんはMRI単独では診断できないということを知っておく必要がある。ペースメーカーなどの金属製のインプラントのためにMRIを実施できない患者のためには、CTが行われるかもしれない。
集まったすべての情報を分析した結果、依然としてその腫瘤が肉腫であることが疑われるなら、その患者は骨軟部腫瘍専門医に紹介される可能性が高い。骨軟部腫瘍専門家(たいていは整形腫瘍外科か一般腫瘍外科)は、追加検査を行い、生検を予定することが多い。
肉腫が疑われる場合、 腫瘍が一つだけ(限局性)かあちこちにあるか(転移性)を決定することが重要である。軟部肉腫が転移している場合、多くの場合肺に転移している。そのため、胸部CTは転移性腫瘍の有無を確認するために定期的に行われる。MFHを含む肉腫がリンパ節や骨などのほかの部位に転移することはあっても、非常にまれである。骨シンチやPET検査などがどれほど有用かは、完全には明らかになっていない(文献20, 23, 30)。これらの追加検査が有用であるかどうかに関しては医者の間でかなり意見に差がある。
MFHを含む肉腫からの転移性病変の大部分は肺病変である(90%)。肺外転移はまれである:リンパ節(10%)、骨(8%)、肝臓(1%)。
PET検査はがん細胞の高い代謝活性を利用する。PETは放射性同位体で標識された ブドウ糖誘導体、フルオロデオキシグルコース(FDG) F18を使用する。フルオロデオキシグルコースF18は腫瘍細胞によってより高率に代謝される。FDGの取り込みはは最大標準摂取率(SUV)としてあらわされる。PETはとても感度が高い検査であるが、肉腫だけを検出するわけではないいくつかの研究は軟部肉腫におけるPET検査の有用性を明らかにしようとしてきた。PET検査という新しい技術の発展から考えると、PET検査の診断能力と病期分類能力はさらに改良されるであろう。今のところ、PET検査の有用性と費用対効果はいまだにはっきりとしていない。
悪性線維性組織球腫の生検
生検は診断のために必要な組織を採取する手段である。生検はいろいろな方法で行われる。針生検は標本を手に入れるために細い針を腫瘍に刺し入れる(文献17, 45)。針生検は外来で行うことができることが多い(図6参照)。もし腫瘍が触りにくい場所にあったり、腫瘍のそばに損傷を受けそうな構造物があったりする場合は、CTガイド下針生検を計画するといいかもしれない。
開放生検術は通常、麻酔下に手術室で行われる。切開生検術では腫瘍のごく一部分を診断のために切除する。切除生検術では腫瘤全体を切除する。切除生検術はたいてい小さな腫瘍に対して行われる(3cm未満)。
生検時に腫瘤の一部を切除するかすべてを切除するかは非常に重要である。骨軟部腫瘍医に実際の生検をしてもらうことや、骨軟部腫瘍医が実際に生検する外科医に生検の計画を指導することの重要性はいくら強調しても、し足りないくらいである。
通常、生検は患肢温存手術を成功へ導く第一歩である。生検創をどこに置き、診断に必要な組織をどのように得るかという技術的な側面はその後の手術に大きな影響を与える(文献28)。
生検で得られた組織は病理医によって評価される。病理医は光学顕微鏡、免疫組織化学染色、電子顕微鏡などの診断装置を使用し、診断のための分子生物学的検査を行う。病理診断に加え、病理医は組織学的悪性度という重要な情報も提供する。組織学的悪性度は腫瘍の顕微鏡所見に基づいて決定され、腫瘍の病勢を反映する。高悪性度腫瘍はより高率に再発と転移を起こしやすい。低悪性度腫瘍は病勢が弱く、転移や再発する可能性が低い。組織学的悪性度は腫瘍の習性を必ずしも保証するものではなく、むしろ治療法を選択する上での参考所見の1つでしかない。
いくつかの細胞遺伝学的な異常がMFHを含む軟部肉腫において報告されている。80%以上のMFHが染色体1q31, 9q31,5p14, および7q32において変異を有する。組織学的悪性度と大きさの多変量解析で、7q32における遺伝子増幅は生命予後不良との相関が報告されている(文献24)。
病期分類
すべての画像検査と生検が終わったら、病期分類を決定することができる。もっとも一般的に使用される病気分類法は軟部肉腫用AJCC(米国がん合同委員会)システムである。表1(文献1)参照のこと。多くの場合、患者は自身の疾患の病期について知りたがる。病期は腫瘍の習性を必ずしも保証するものではないということを心にとめておかなければならない。病期分類は単に、その腫瘍を治療するうえで、最適な臨床結果を得るための方法について参考情報を与えてくれるだけのものである。
病期 | 大きさ | 深さ | 組織学的悪性度 | 遠隔転移 |
---|---|---|---|---|
I | どれでも可 | どれでも可 | 低 | なし |
II | <5cm、もしくは表層性の>5cm | 表層 | 高 | なし |
III | > 5cm | 深層 | 高 | なし |
IV | どれでも可 | どれでも可 | どれでも可 | あり |
“MFHを患ったら、次に何をすべきか?”
いったんMFHの診断が確定したら、各々の患者に対して個々の治療計画が立てられる。肉腫治療は集学的手法を必要とし、したがって、医師がチームとなって患者の治療に参加することになる。MFHの治療法は基本的に、以下の3つである。
- 手術
- 放射線療法
- 化学療法
手術
手術はすべての軟部肉腫治療の基本である。手術の目的は腫瘍を発生部位からすべて取り除くことである。四肢の肉腫においては手術選択肢は大きく2つのカテゴリーに分類される:患肢温存と切断である。歴史的に軟部肉腫に対しては切断が行われていた。我々の肉腫に対する理解が進み、切断は過去のものとなった。数々の研究により、切断と患肢温存では患者の生存率には差がないことが示されている(文献46、47)。米国国立がん研究所(NCI) によって行われた無作為化臨床試験では、切断を行った軟部肉腫患者の写真と患肢温存を行った軟部肉腫患者の写真では全生存期間に差がなかった。現在では少なくとも90%の腫瘍が患肢温存手術で切除されており、このことは四肢を切断せずに腫瘍が切除さていることを意味する。患肢温存手術は外科医が腫瘍を完全に切除する自信があり、残された四肢が有用な機能を持っていることを確信している場合にのみ、行うべきである。腫瘍を取り残さぬよう十分な範囲を切除することと、良好な機能を残すことのバランスをとる作業は非常に複雑であり、症例ごとに判断されるべき事柄である。術前に患者と外科医がすべての選択肢において予測されることを一緒に検討しておくことはとても重要である。腫瘍の大きさと犠牲にせざるを得ない構造物によるが、腫瘍切除後の再建はしばしば必要となる。例えば、骨や関節の再建が必要になったり、手術創を覆うのに軟部皮弁が必要になったりする。
腫瘍は切除されると、全ての切除検体は病理医によって悪性度と切除断端を評価される。切除断端という用語は切除検体の最外側辺縁部を指すものである。切除断端陰性とは腫瘍細胞が辺縁にいないことを示しており、腫瘍が完全に切除されたことを示している。切除断端陽性とは腫瘍細胞が切除検体の辺縁に見つかったことを意味しており、顕微鏡レベルの病変が残存している可能性を示している。手術に際しては、断端陰性であることが切に望まれる。残念ながら、いつも断端が陰性であるとは限らない。肉腫に対する手術手技は表2に示されるように分類される。可能であれば、断端陰性を得るために広範切除および根治的切除を目指すべきである。
腫瘍内切除 | 腫瘍の部分切除 |
辺縁切除 | 反応層を通っての切除;顕微鏡レベルの病変が残存しているかもしれない |
広範切除 | 周囲の正常組織を付けて腫瘍全体を切除 |
根治的切除 | 腫瘍を含む区画ごと切除 |
放射線治療
放射線治療は放射線腫瘍医によって行われる。放射線照射の目的は顕微鏡レベルの遺残腫瘍を殺すことによって局所における腫瘍制御を改善することである。放射線照射により明らかに局所再発率が下がることは示されており、MFH治療において必要不可欠な要素である(文献6,27)。典型的な照射量は45Gyから65Gy である。
米国国立がん研究所(NCI)によって行われた前向き無作為試験で、高悪性度腫瘍患者91人を手術単独治療群と手術と術後体外放射線照射(XRT)で治療した群に無作為に割り付けた(文献48)。手術単独治療群は20%の局所再発率を示したが手術とXRTで治療した群は局所再発率0%であった。両群は全生存期間においては差を示さなかった。概して、適切な患肢温存手術と放射線照射で治療した患者は85%以上の局所制御率を示す。
放射線照射の方法はいくつかある。もっともよく行われる方法は術前、術中、術後もしくはその組み合わせで行われる対外照射である。表3に示す通り、それぞれ利点と不利な点がある。主要神経血管束と接している腫瘍では、術前放射線療法で腫瘍を縮小できれば、患肢温存手術が可能もしくは容易になるかもしれない。術前放射線照射の主な不利な点は創部の術後合併症を引き起こしやすいことである。(文献10と35)術後放射線照射はおそらくもっとも広く行われている方法である。典型的な術前と術後放射線照射は、約5週間行われる。術中照射は、膀胱直腸などの近接組織を温存しながら目的とする領域に大線量を直接照射できるという利点がある。局所制御が困難な後腹膜巨大肉腫の治療にとりわけ有用である。
照射法 | 利点 | 不利な点 |
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術前 |
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術中 |
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術後 |
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ほかの放射線照射法としては小線源療法と呼ばれる方法がある。外科医が腫瘍を切除した後、放射線腫瘍医が空のカテーテルを術野に設置する。術後約5日が経過し、創傷治癒が開始したら、術野に設置したカテーテルに放射性物質を5日間挿入する。小線源療法は、数週間にわたり毎日放射線照射施設に通う必要はなく、短期間で高線量を照射できる。
米国国立がん研究所によって行われた前向きランダム化臨床試験では、91名の高悪性度腫瘍の患者が手術単独もしくは手術と術後放射線治療の併用でランダム化割り付けされた(文献48)。手術団読では20%の局所再発率であったが、一方、手術+術後放射線治療群では局所再発率は0%であった。全生存率では両群に差がみられなかった。一般的に、十分な切除縁で行われた患肢温存術と補助放射線治療の組み合わせで治療された患者では、局所制御率は85%以上に達する。
残念ながら放射線照射にはよく知られている副作用がある。創傷治癒における問題はすでに述べたとおりである。組織の瘢痕化が固くてこわばった筋肉や皮膚の変色を引き起こすという問題もまた、よく述べられている。放射線照射によって引き起こされる、もっとも重大な合併症は放射線照射領域内に二次性がんが発生することである(文献8,29,32)。これは放射線照射後肉腫もしくは放射線誘発性肉腫と言われている。放射線誘発性肉腫はまれであり、長期生存者の5%未満に発生している。
化学療法
MFHの治療における化学療法の役割は完全には明らかになっていない。化学療法剤であるドキソルビシンを組み込んだいくつかの臨床試験は全生存率に大きな影響を与えることなく無病生存率を改善する傾向を示した。ほぼ1600例の軟部肉腫を対象とした大規模メタアナリシスの結果は化学療法を追加することで全生存を10%未満改善したと結論づけている(文献2)。四肢発生腫瘍患者における結果は体幹もしくは後腹膜腫瘍患者の結果より良かった。より最近では、イホマイドとドキソルビシンを組み込んだ臨床試験は無病生存率の改善を示した(文献26,36)。化学療法の大きな限界の一つは、疾患特異的生存率に大きな影響を与えるのに必要な量を投与した場合に伴う毒性である。造血系増殖因子のような補助薬剤を加えることでより高容量の薬剤を使用可能となり、生存率の改善傾向が見られた。
残念なことに、化学療法試験の結果解釈はそれぞれ大きく異なっており、患者が治療の一部として化学療法を行うかどうかを決断する際に過去の臨床試験の結果を参考にすることを困難にしている。MFHの治療に化学療法を組み込むかどうかは腫瘍内科医の指導に基づいて決定されるべきである。化学療法はすでに転移性疾患がある患者もしくは転移性疾患を発生する確率が最も高い患者に投与されるべきであろう。多くの場合、化学療法は臨床試験の場合に投与されているようである。
予後と治療結果
MFH患者における生存と相関すると知られている予後決定因子は腫瘍の悪性度、深さ、大きさ、転移病巣の状況、患者の年齢、そして組織亜型である(文献11,16,39)。予後良好因子は年齢60歳以下、腫瘍の大きさが5cm未満、表層の局在、低悪性度、転移病巣がないこと、そして粘液型亜型であることである。高齢の患者が5cmを超える大きな、そして深部発生の高悪性度腫瘍を持っていた場合、それほど良い治療成績は期待できない。たとえば、小さく低悪性度な腫瘍を持つ患者は完治を達成しやすい。大きく、深部発生の高悪性度腫瘍を持つ患者の5年生存率は34-70%の間と見積もられる(文献25,42,49)。
肉腫ノモグラム
スローンケタリング記念がんセンターで治療された原発性軟部肉腫(STS) の成人患者の前向き追跡コホートに基づいて、治療後12年の肉腫特異的死亡率を算出するためのノモグラム(計算図表)が作られた(文献21)。診断時年齢、腫瘍の大きさ(5cm以下、5から10㎝、10㎝を超える)、組織学的悪性度(高悪性度か低悪性度)、組織亜型(線維肉腫、平滑筋肉腫、死亡肉腫、悪性線維性組織球腫、悪性末梢神経腫瘍、滑膜肉腫、その他)、そして発生部位(上肢、下肢、腹腔、胸郭もしくは体幹、後腹腔内、顔面、頚部)がノモグラム予測変数である。このノモグラムの正確さは内外の施設で裏付けられ、保証されている(文献14)。ノモグラムは最初の手術から6か月未満で転移性病変がない成人患者に使用されることを想定している。肉腫ノモグラムは患者のカウンセリングや経過観察の予定作り、そして臨床試験の適格性判定に有用である。
局所再発(腫瘍が同じ位置に再度発生すること)は全軟部肉腫患者の写真のおおよそ20~30%に発生する(文献25,42,49)。局所再発率が最も低いのは四肢であり、最も高いのは後腹膜腔と頭頸部発生肉腫である。局所における再発率の違いは手術の時に完全に腫瘍を切除できるかどうかに直接相関している。切除断端に腫瘍細胞がいる場合には局所再発率が高くなる(文献18)。四肢以外に発生した腫瘍の場合には、解剖学的に切除断端陰性を得ることは難しい。局所制御は全生存期間に影響を与えるかどうかは不明であり、相反する意見が存在するままである。議論の両面を支持する、いくつかのよく計画された研究が報告されている。
治療成績と生存率に関するデータの多くは厳密なデータ採用基準を欠いた、かなり不均一な後ろ向き研究から得られたものであることを患者は理解しておく必要がある。引用された生存統計解析結果は、主治医にとっては治療方針決定に際して非常に有用であるが、個々の患者にとってはその価値は限られたものとなるだろう。
センター | 患者数 | 局所再発率(%) | 遠隔転移率(%) | 5年生存率 |
---|---|---|---|---|
スローンケタリング記念がんセンター | 230 |
19 |
35 |
65 |
MDアンダーソンがんセンター | 271 |
21 |
31 |
68 |
フランス連邦がんセンター | 216 |
31 |
33 |
70 |
フォローアップとサーベイランス
四肢MFH患者のおよそ1/3と後腹膜MFH患者の1/2近くは原発部 (局所再発)か遠隔部(遠隔再発もしくは転移)に再発をおこす。多くの再発はたいてい治療後最初の2年以内に発生するが、患者の一生のいつ起こるかはわからない。フォローアップの頻度と長さは個々の患者が持つ再発発生危険因子の数によって異なる。平均して約10年間フォローアップされる。大きいもしくは高悪性度腫瘍の患者は、最初は数か月に一度診察を受けることになるだろうが、低悪性度や小さな腫瘍の患者ではおそらく年に一度見るぐらいであろう。フォローアップの受診に際しては、診察とレントゲン写真かCTによる胸部の評価を受ける。状況によるが、MRIで原発部を調べることもある。
もし再発が見つかったら、手術、放射線、化学療法を含む治療法の検討のために診療チームが再び協力する。たいていの局所再発は、追加切除で効果的に治療できる。切除可能な再発局所病変のばあい、患者のおおよそ2/3は長期生存が期待できる(文献31と44)。もしも放射線照射を行っていないのであれば、再発部に再発を防ぐために照射したほうがよい。転移性病変はもっとも重篤な再発様式であり、肺にもっともよく発生する。個々の治療計画は、それぞれの患者の事情や疾患側の要素だけでなく、以前に治療として何を受けたかによって大きく異なる。孤発性の切除可能な肺転移巣を持つ患者では、その約20%から50%の患者において長期生存を達成することが可能である(文献7,9,41)。化学療法はしばしば遠隔転移患者の治療に用いられる。残念ながら、切除不能な再発病変は押しなべて予後不良である。
まとめ
- MFHは治る疾患である。
- 世界保健機関(WHO)により“悪性線維性組織球腫”という用語は、それ以上に分類不可能な“未分化多型肉腫”に変更された。
- MFHに対する主力となる治療は完全な外科的切除術であり、ほとんどの場合、補助放射線療法が追加される。
- 化学療法は再発危険性が最も高い患者やすでに再発を起こした患者に対して行われる。
- 再発MFH患者でさえ治癒しうる。
- 予後良好因子は小さな腫瘍径、低悪性度、四肢発生、表層局在、そして限局性病変である。
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顕微鏡的には、花筵状パターンと呼ばれる中心から放射状に拡がる紡錘形細胞の短い束の集合であり、多形性を示す領域では腫瘍性の巨細胞が混在している。
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図2(右)腫瘍が組織学的に粘液型の特徴を持つとするには、少なくとも腫瘍の半分は粘液組織で占められなければならない。
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腫瘍は大腿骨に接しているが、浸潤はしていない。大腿動脈、大腿神経、坐骨神経の場所はMRIで同定できるので綿密な手術計画を立てることができる。
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MRIで正確な腫瘍の大きさを測定できる。
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このような針生検は外来で行われることが多い。重要なことは、腫瘍を切除するための皮切は、生検創を延長したものであるということである。生検は腫瘍切除の際に予定される皮切に沿って行われる。
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生検は腫瘍切除の際に患肢温存術を可能にする皮切に沿うか、もしくは平行に行わなければならない。以前の生検創に沿って楕円を描いていることに注意。生検侵入路は再発を防ぐために根治的手術の際に切除する必要がある。
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周囲の正常組織を腫瘍に付けて切除を行うので手術中に腫瘍が露出することはない。
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腫瘍が完全に切除されたら放射線腫瘍医が空のチューブ(カテーテル)を手術創の底部に設置し、所定に位置に縫着する。手術創は注意深く閉じられる。